0.1 研究の背景と目的
中国語を母語とする日本語学習者に見られる日中同形語の意味または品詞の誤用に関する先行研究は大別すると2種類に分けられる。「(1)日中同形同義・類義語の品詞誤用に関する研究、(2)日中同形異義語の意味誤用に関する研究」である。(1)では、中国人日本語学習者の作文における小規模なコーパス(以下、小規模な「中国人日本語学習者作文コーパス」と称する)、アンケート調査或いは教育現場で採集した誤用例と正用例を取り上げた上で、誤用の原因を分析し、誤用防止の対策を立てるものが多い(例:五味・今村・石黒(2006);庵(2008);何(2012))。(2)では、中国人日本語学習者に見られる特定の同形異義語の誤用分析(例:陳(2009);王(2011))と日中同形異義語辞典をはじめとする量的研究が多く見られる(例:張(1987);上野・魯(1995);王・王(1995);黄・林(2004);張(2004);秦(2005);王・小玉・許(2007);郭・磯部・谷内(2011))。
これらの先行研究の日中同形語に対する分類は厳密さを欠く以外に、日中同形異義語辞典の見出し語の選定と語釈に遺漏や不備があるなどの問題も指摘し得る。また、意味と品詞の片方の誤用に偏った研究が多く、意味と品詞の二重誤用がされやすい日中同形語(例:二手、唱歌、低落)に関する研究はほとんどなされていないようである。
従って、本研究は主に以下の三点を目的としている。
第一に、先行研究の日中同形語の分類方法を検討し、より合理的で、厳密な分類方法を導き出すことを試みる。
第二に、二重誤用されやすい日中同形語にはいかなる語があるのか、という点を明らかにし、それに基づきこれらの語の中国人日本語学習者における誤用実態、特に誤用傾向を把握する。
第三に、誤用の原因を分析し、日本語教育の視点から誤用防止の対策、特に日中同形語の教授と学習に役に立つ改善策を提示する。